コメント

角田光代(小説家)

映画を作ってくれた人ありがとう。
「100万回生きたねこ」の作者と、生と死にまつわるとても深い対話をすることができました。
しかも彼女のいない、今。そして、これから先も。

河瀨直美(映画作家)

佐野洋子が亡くなったあとの「不在」を「不在」として受け入れることのできない私たちが、
佐野洋子を「100万回生きたねこ」と同様に、永遠の「存在」として心に刻む物語である。

手塚るみ子(プランニング・プロデューサー)

映画を観るというより、それは一冊の麗しい写真集をめくる、そんなひとときだった。
人には1つ2つ黒く醜い瘡蓋がある。
それは佐野洋子さんという作家でさえそうだったのではないだろうか。
瘡蓋はゆっくりと剥がされる。
けれど傷口の痛々しさも、そこにコラージュされる映像と音楽が、あまりに美しかったので、気にはならない。
むしろ自然と治癒した皮膚を確かめるような、安堵感に包まれた。

甲斐みのり(エッセイスト)

自ら命の限りを告げる頼もしくて力強い洋子さんの声。
主語や意思が定まった麗しい日本語。明るい光りが差し込む荻窪の住まい。
森の中の北軽井沢の別荘。本と人が寄り添う葬儀。故郷・北京の風景。
洋子さんが、たくさんの心にまいた種とともに。
生きること、愛すること、死んでいくこと、言葉と音が、静かに美しく響き合っていた。

清川あさみ(アーティスト)

死のさきを見つめ続け、ほんとの愛を探し続けた一人の女性は
世界中から愛され続ける名作を生んだ。

丹下京子(イラストレーター)

正直こんなに幸せな気持ちになれる映画とは思っていなかった。
観ているうちに「100万回生きたねこ」という物語の大きなうねりの中に飲み込まれ、
もがいていたらいつのまにか気持ちいい風に乗っかって気づいたら、私はちゃんと前を向いて立ってた。
佐野さんの嘘のない言葉が優しかった。

枡野浩一(歌人)

絵本「100万回生きたねこ」が大好きなので、この映画を観るのが怖かった。
観てみたら、声や文章や絵でしか参加していない佐野洋子さんが、真の主役として輝いていた。
彼女の華やかな仲間や肉親にではなく、絵本の「読者たち」にカメラを向けたところが、果敢。

松野泰己(ゲームデザイナー)

愛猫家は自らを飼い主とは呼ばず、猫の僕(しもべ)と自虐的に笑う。
「100万回生きたねこ」は強烈な一撃を与えてくれる名作である。
その作品に魅了された者は皆、佐野洋子女史の僕である。
彼女の言葉とその生き様に魅了され、愛さずにはいられない。
我々は彼女を「喪失」したが、映画という新たな姿で「再生」を果たした。
欠落したままの何かが我々の中にあるとするならば、
この映画はそれをそっと優しく補完してくれるはずだ。

内田春菊(漫画家)

自分が母でもあり娘でもあることに率直だった洋子さんの教えてくれたものは大きい。
私の家にも「100万回生きたねこ」が何冊もあります。友人が子どもたちに次々とプレゼントしてくれるのです。
洋子さんの声、懐かしい。「私もうすぐ死ぬからさ」ってあんなに自然に言ってたなんて…。

石内都(写真家)

絵本の作家とその絵本を読書する女達の濃密な空気が小谷監督の静謐な映像と合まって、美しい物語を告げる。
それは生と死をめぐる悲哀に満ちた日々をそっと包み込む一条の光となって、輪廻の流れに導かれるような命の尊厳にかかわるドキュメントとなった。

ルカ・セチェット・サンソエ
(トリノ国際映画祭 プログラムディレクター)

非凡なアーティストでもあるひとりの女性の人生、思考、そしてアートを通して小谷監督は家族の人間関係について個人的な探求を進める。非常に熟成したスタイルを持って女性性と母性についての不思議なフレスコ画を描く。対象の魂の奥底にこっそりと入り込み内面の深い傷跡に触れることで多くの発見をもたらす。小谷監督は、まぎれもなく日本で最も繊細でオリジナルのある作家だ。

ソーラヴ・サーランギ(映画監督『ビラルの世界』)

映画監督とは物語作家です。
しかし時に哲学者でもあり、この映画はまさにそうです。
『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』は、まだ誰もいつ、どこで、どのように起こるか解らない、死という運命の向こう側を描き出しています。
しかしそれは穏やかで、まるで忘れられない初恋のような安らぎを想像させます。
なぜなら、どうやら私の命は愛から生まれたらしく、そうやって命は引き渡されていくのでしょう。
この映画は私に、この先やり残したことがあることがあるかどうかなど気にせずに、旅立ってもよいのだと教えてくれました。
私の映画も、繰り返し読まれてきた佐野洋子の作品のように残していきたいと思っています。
そして、そのためには名声を得るのではなく、家族や友達に素敵な食事をつくってくれた、そんな懐かしい誰かのようになるしかないのだということを教えてくれました。
素晴らしい、本当に素晴らしい映画です!